沖縄のハンバーガーを食べつくす

ビクモンが消えた2008年秋。それから1年経ったある日、沖縄市にやってきた私は、一番街の最後の店があった場所に行ってみた。

そこに、看板や店内の明かりは消えているが、以前の外観そのままのビクモンがあった。
よく見ると、玄関のドアが開いており、薄暗い店内に小さな明かりが付いていた。もう使われていないカウンターで、店主の奥様がなにか作業をされていた。失礼ながら私はおもわず声をお掛けしてしまった。
奥様は大変気さくな方で、おかげで長い時間お話を伺うことができた。



奥様の話から、ビクモン閉店のいきさつを少し書き残しておきたい。

ビクモン一番街店の営業開始は約30年前で、当時はアルバイトの学生を雇うほど盛況だった。お店には中高生から中高年まで、いろんな世代が店を訪れた。当時の売り上げの半分以上はテイクアウトだったそうだ。



ビクモンはフランチャイズ営業のため、食材はもちろん、メニューのレイアウトから店の椅子までも本部が決めていた。
ところが、ライバル店の出現より、ビクモンの他店舗が減少し始めた。そうするうちに営業を統括する本部が解散してしまい、以後は本部に頼らない、店舗ごとの自主営業をせざるをえなくなった。

バンズは以前と変わらず同じ工場で発注を続けることができたが、ハンバーガーやフィッシュバーガーなどのパテは入手できなくなった。以後は店独自で適した食材を見つけて以前の味を再現することになった。食材以外にも、たとえば揚げ物に使う油も店によって違ったので、同じビクモンでも一番街店はフライがおいしいというお客もいたそうだ。またロゴ入りの包装紙などは使えなくなり、市販品で代用することになった。ドリンクの紙コップにロゴがなかったり、バーガーの包装に銀紙をつかったりしたのはそのためだった。

以後は主に店主夫妻でお店を切り盛りしてきた。休日など忙しい日は、人手不足を家族の応援で補った。



お店では、お客さんに「おいしかった、また来ます」と感謝されることが多く、それが励みになっていた。顔なじみのお客さんには店の外でも声をかけてもらえるようになった。そんなとき飲食店をやってよかったと思ったそうだ。逆にお客さんに、お店のレトロな雰囲気をほめてもらったときは、古いお店だと思われてるんだと逆に少し恥ずかしかったらしい。ただし、たとえアルバイトを雇っていた時も、閉店後の店舗の掃除は必ずご夫妻でされていたそうだ。



ビクモン最後の一店になっても、お客さんやビクモンを立ち上げた人のためにもお店を続けていた。しかし体力的に限界が近づき、ついにお店を閉める決意をした。けっして体調が悪くなったわけではなく、奥様いわく、“定年”だった。閉店することを大きく公表しなかったのは、お客さんが増えてしまえば忙しくなるおそれがあったからだ。

営業が終わった後に、家族の皆さんはお店でお祝いのパーティーをした。

閉店した後も、いつお店を再開するのかと多くの人に尋ねられるそうだ。はるばる遠くから訪れる人も少なくないらしい。私は、だからお店のシャッターを閉めずに、ビクモンの照明が消えていることで、もう閉店したんだよと伝えたいのかなって思った。残念ながら体力的な理由からご夫妻自身がお店を再開するつもりはないそうだ。



お話をお聞きして、私は、改めて奥様にこれまで営業を続けてこられたことへの感謝の気持ちと、並びにお疲れさまでしたと申し上げた。

沖縄市中心部はシャッターが閉まった店舗が多く、市は街の活性化に乗り出している。その目玉の一つにもなり得る存在だったビクモンがなくなったのは非常に残念だ。でも店主のご夫妻は精一杯やってこられた。
ご夫妻は、ビクモンの味を一番良く知っていて、お元気でいらっしゃる。また幸いなことにお店はほぼ閉店時の状態で残っている。もしも、この先ビクモンの伝統を受け継ぐ若い人が現れれば、いつの日かビクモンは復活するかもしれない。そんな期待をついつい抱いてしまう。

私は奥様の話を聞いて、ビクモン閉店で心にぽっかり空いた穴を少し埋めてもらえたどころか、ビクモンとの再会に興奮を隠しながらお店を後にした。

いつか、また出会いたい。


―以下は2003年1月のビクモン現役時代に撮影したもの―

壁に掲げられたメニュー



こいつの名前はビックボーイ　　ビクモンのイメージキャラクターだ



ビックボーイバーガーとハムエッグサンド